仏教に学ぶ「ココロの健康」のコツ

50代、60代、70代。いくつになっても人生の課題は現れるもの。そんなとき、仏教の教えが役に立つかもしれません。身近にあるのに意外と知らない仏教のこと、お寺のみなさんに聞いてみました。

今回おたずねしたのは、坐禅道場で内弟子として10年間つとめ、現在は東広島市安芸津町の禅寺を守りながら坐禅会や写経会を開いている「福寿院」の山口恵美子さん。「坐禅」を通じて心をととのえるコツを聞いてみました。

坐禅は、今に意識を置くことで心をととのえるトレーニングのようなものです。仏教を開いたお釈迦様は、菩提樹のもとで心を見つめ、悟りを開いたと言われています。お釈迦様の時代から連綿と受け継がれてきた教えの流れをくむ坐禅。究極的には悟りを開くための行ですが、日常に取り入れることでストレスの軽減や集中力アップ、心の平安などさまざまな効果が期待できます。

では実際に何をするのかというと、たとえば曹洞宗では壁に向かって座り、膝の上で軽く手を組んで呼吸に意識を向けます。宗派や道場によって作法の違いはありますが、基本的には「今この瞬間に集中する」ことをひたすら続けます。最初のうちはなかなか難しいかもしれませんが、時間とともに不要な思考が落ち、心身がすっきりするのを感じられるのではないでしょうか。

一番簡単なのは、目の前の作業に集中することです。誰でも経験があると思いますが、掃除でも料理でも、そのこと自体に没頭すれば不要な思考は自然と落ちていきます。

次に、ふだん何気なく行っている動作に対して、より丁寧に意識を向けていくということをおすすめします。例えばコーヒーを飲む時も、ただ無意識に飲むのではなく、ひとつひとつの感覚を丁寧に味わってみる。カップの硬くなめらかな手触り、液体が唇に触れ、のどを伝っていく感覚。こんな風に「今」に意識を置くことで、心がすっきりととのってきます。

イライラや不安は、きっと未来や過去へのとらわれが原因になっているのではないでしょうか。もちろん、将来を予測したり経験を思い出したりすることは、生きていくために必要な能力です。ただ、それにばかり気を取られてしまうと、時として必要以上のストレスを抱えてしまうかもしれません。できるときでかまわないので、日常の中で今に集中する時間を持ってみてください。

この不安は「比較」することから起こっているのではないでしょうか。若い頃の自分との比較、周囲の若い人との比較。でも、歳をとってさまざまな機能が衰えていくのは自然なことですよね。むしろ、ずっと若いままの方が不自然です。

体や頭が衰えていくのも、言い換えればそれだけ長く生きてこられたことの証。失ったものに執着するのではなく、今あるものに目を向けてみてください。坐禅と同じで、「今に意識を向ける」「ありのままを受け入れる」ときっと前向きになれますよ。