Vol.38_お屠蘇とは 〜漢方薬の基本を含めて〜

薬剤師会レポート_38

お正月に無病息災を願って飲まれる「お屠蘇」ですが、
実は「屠蘇散」と言い、「漢方薬」が含まれたものだとご存知でしょうか。
今回はそんな「お屠蘇」について、そして「漢方薬」についてお話します。


●お屠蘇の由来と中身について

お屠蘇は中国の三国時代、「華陀(かだ)」という名医が災難厄除けのために数種類の生薬を調合し、お酒に浸して飲んだのが始まりとされています。それが平安初期に日本に伝えられ、宮中の正月行事として定着してきました。江戸時代には庶民にも広がり、みりんで飲みやすくしたのもこの頃と言われています。正式名は「屠蘇延命散」。邪気を屠(ほふ)り、魂を蘇らせるところからその名が付いたとされています。
この生薬を調合したものを「屠蘇散(とそさん)」と呼び、現在の屠蘇散には
・白朮(びゃくじゅつ):健胃、利尿
・桔梗(ききょう):鎮咳、去痰、排膿
・山椒(さんしょう):健胃、抗菌
・防風(ぼうふう):発汗・解熱、抗炎症
・桂皮/肉桂(けいひ/にっけい):健胃、発汗・解熱
・陳皮(ちんぴ):健胃
・丁字(ちょうじ):健胃、抗菌
などが配合されていることが一般的です。風邪予防に効果的な生薬を含んでいますが、作用の強い生薬は含まれておらず、お正月に一口飲む程度では薬理効果は期待できません。ちなみに、お屠蘇を飲むときは東を向き、年少者から順に飲むのがしきたりとされています。厄年の人は最後に飲みます。

●漢方薬とは

では、そもそも漢方薬とは何でしょう。
漢方薬は、自然界にある植物や動物、鉱物などの薬効となる部分(生薬)を、原則2つ以上組み合わせて作られた薬です。長い歴史をかけて、生薬の種類や量、組み合わせが工夫され、漢方処方として確立されました。
体に本来備わっている自然治癒力を高め、体を整えることを基本としているため、病名から処方される西洋薬と異なり、一人ひとりの体質や症状に合わせて処方されるのが特徴です。このため、西洋医学では対応しにくい不定愁訴や検査に現れにくい不調、体質がからんだ病気には漢方薬が向くことが多いとされます。現在、病院で処方される医療用漢方製剤(保険適用)は148処方あり、治療で漢方薬を使用する医師は8〜9割になるという調査結果もあります。

●漢方薬との上手な付き合い方

一般に漢方薬は西洋薬に比べて副作用が少ないというイメージがあると思いますが、これは間違いです。薬である限り、薬効があるのと同時に副作用があり、それは漢方薬も例外ではありません。漢方薬の副作用で最も多いのは胃もたれなどの消化器症状、次に湿疹やかゆみなどの皮膚症状です。ただ、効き目は穏やかなものが多く、西洋薬のように飲み始めて数日で大きな副作用が出ることはまれです。また、副作用については薬の種類や体質など処方ごとに異なるため、必ず医師・薬剤師に相談しましょう。
服用についても注意が必要です。複数の漢方薬を併用した場合や、西洋薬の成分が漢方薬と重なった場合には、薬効が期待できないあるいは増強されるなど相互作用が起こる可能性があります。漢方薬、西洋薬に限らず、薬を併用する際は医師・薬剤師への相談が必要です。また、漢方薬は成分が吸収されやすいよう、食前・食間に服用する用法が多くなるため、このタイミングも忘れないようにしましょう。
漢方薬は煎じて飲むというイメージも強いですが、現在では煎剤はもちろん、散剤、丸剤、顆粒、錠剤など剤形も様々で、病院で処方されるものから薬局で購入するもの、漢方薬局で調剤してもらうものなどがあり、私たちにとても身近な薬になっています。一方で、その人の体質や症状に合ったものでなければ十分な効果を期待できません。ご自身の体に合った漢方薬を正しく飲むことで、体調のケアに役立ててください。


薬剤師会_DATA_201910