山田院長(以下山田):歯科と整形外科は一見離れているようですが、実はどちらも姿勢、つまり“体の土台”に深く関わっています。例えば口の中で言えば、舌の位置が姿勢に影響しています。舌の力が弱く下がると、食いしばりを伴うことが多く、下顎が後ろに下がって舌根部も落ち込み、呼吸がしづらくなるのです。健康な人は舌が上顎についていて、気道が広がるので呼吸も楽になります。つまり、舌の位置を決めるのが姿勢であり、それが整っていなければ顎の位置をいくら治しても改善は不十分です。当院では「西村式スプリント」と呼ばれるマウスピースを使っています。姿勢によって下顎の位置は変わりますし、顎の位置が悪い人は姿勢も悪い。ですから顎を調整するだけでなく、姿勢そのものの意識づけを患者さんに指導しています。
池田先生(以下池田):なるほど。私が考える“体の土台”は「筋肉」です。姿勢は意識すれば一時的に戻せますが、首や体幹の筋肉で支えられていないとすぐ崩れてしまう。変形性膝関節症や腰のヘルニアなど膝・腰の痛みも、多くの場合、筋肉で支えられないことが原因となります。つまりすべては筋力にかかっているんです。治療も大切ですが、最終的に姿勢を支えるのは筋肉。どのような方でもじっくり取り組めば真っすぐな姿勢に戻り、全身のバランスも改善していきます。筋力低下は新たな疾患につながるので、骨や関節を守るためにも筋肉強化は欠かせません。もし手術をしたとしても鍛えなければ再び負担がかかり傷んでしまいます。
山田:確かに、歯科でも50代以降は変化が顕著です。嚥下が難しくなったり、歯周病が進行して抜歯に至ると、顎の位置も変わります。抵抗力の低下で歯周病が一気に悪化する方も多いですね。奥歯がなくなると食いしばりが強まり、顎関節症を悪化させることもあります。
池田:整形外科でも50代からは筋力と骨密度の低下がはっきり現れます。女性はホルモンの影響もあり特に骨密度が下がりやすい。筋力低下は猫背や転倒の原因になり、骨折から寝たきりへとつながる悪循環に陥りやすいです。だから全年齢で意識しておくことが大事なんです。最近は若い方でも、顎の力が弱い方が増えていますね。
山田:そうなんです。子どもたちは硬いものを食べないので顎が小さい傾向にあります。西村式の患者さんでも、姿勢が悪く食いしばりをしている人は体幹が弱い。体幹が弱いと少し押しただけでよろけますが、顎の位置を調整すると体幹も安定する。不思議ですが顎と体幹は相互に影響し合っているのです。
池田:肩こりの方も同じで、噛み合わせを治しただけで楽になったという声もありますよね。
山田:ええ。片側だけで噛む癖があると筋肉のバランスが崩れ、肩の高さが左右で違ってきたり、足の長さにまで影響することもあります。
池田:その場合はマウスピースで調整するんですね。噛み合わせひとつで体全体に変化があるとは驚きです。
山田:はい。歯列矯正が目的の「インビザライン」(※)とは異なり、西村式のマウスピースは歯ぎしり対策用で昼用・夜用があります。それにしても、歯と体、どちらも「筋肉」と「姿勢」が大きな鍵になっているんですね。では次に、そんな体の土台を守るための習慣やケアについて聞かせてください。
池田:はい。私は健康を維持するための土台とは、やはり「姿勢」と「筋肉」だと考えています。まずは猫背にならないよう、バランスをとった姿勢を意識することが大切です。
さらに、姿勢が崩れないように筋肉をしっかりつける。筋力をつけながら意識を続けていけば、それが次第に習慣となり、気づけば自然に正しい姿勢を保てるようになります。理解さえできれば高齢の方でも十分に可能です。私がよく患者さんに伝えるのは「頭を上から糸で引っ張られているようなイメージ」です。リハビリの場では、専門家の指導のもとでその感覚を身につけてもらうことを大切にしています。家庭では、水中ウォーキングやエアロバイクなど、体重がかかりすぎない運動がお勧めですね。歩けなくなると食欲も出ず、一気に負の循環に陥ってしまいますから、まずは「食べられること」「動けること」が健康の鍵になります。