山田院長(以下山田):私は職業柄、口の中という細かい場所を診るので、診療中はどうしても窮屈な姿勢になりがちで、肩も凝るのでこまめに姿勢を変えるよう気をつけています。陶芸家の方は、私のように無理な体勢で集中しすぎることはないのですか。
稲留さん(以下稲留):意外かもしれませんが、多くの陶芸家は美しい姿勢で作業するんです。ろくろの方が回るので、自分が芯になっていないといけない。つまり、ろくろと自分の力関係がバランス良く取れる、一番無理のない姿勢が、作陶に自然な形なんです。
山田:それはいいですね。頭を動かすとそれにつられて下顎が動くように、姿勢と顎は密接な関係にあります。頬杖をつくクセなどがあると、これが原因で歯並びが変わったり顎関節症になってしまう恐れもあるんです。そしてこれは、子どもだけに限りません。だから姿勢は、歯科的にも気をつけてほしいことですね。
稲留:なるほど。そんな私たちの共通の作業と言えば、私は陶器を、山田先生は患者さんの歯並びを形づくっていくわけですが、造形する上でのこだわりや難しさはありますか。
山田:歯並びの造形となると、歯の本数が少ない方や噛み合わせが悪い方が対象になります。歯がない方というのは指標となる歯も少なく、顎の位置や口周りの筋肉も偏っていることが多いので、本来の噛み合わせの位置を探るのがなかなか難しい作業になります。そこを患者さんにとって最適な位置に、入れ歯やインプラントで置き換えていきます。
稲留:患者さんの理想、つまり美意識で相違があったりはしませんか。
山田:前歯の出具合や角度については、「もっと真っ直ぐにしたい」と言われる方もいらっしゃいます。でも、前歯は本来ある程度角度がついてないといけないもので、だからこそ下顎も滑らかに動くんです。患者さんには治療前にこうした“自然な理想形”についてお話することは多いですね。
稲留:先生から歯並びも“自然な理想形”という言葉が出てきましたが、陶芸にも同じことが言えます。陶芸も、自然の中にある土を使うので、急激に乾かす、つまり自然に反するやり方をすると、粘土の中で水分を引っ張り合い焼く前にひび割れてしまいます。
山田:そうなんですね。
稲留:作風についても、自然の流れを表現することをテーマにしていますが、まだまだ我が出てしまっていますね(笑)。私は三原の山間に工房を構えていますが、光を求めて自然に譲り合い伸びていく樹々の、生きる方向へ向いたあの姿をいつも美しいと感じています。もっと力を抜いた、あのような自然に即した作品を作るのが理想です。
山田:素晴らしいですね。樹々とは違いますが、歯並びも先天性だけではなく、習慣によるものが大きいんです。歯は本来、ベロと口周りの筋肉が釣り合った場所に並びます。それが、鼻が詰まって口呼吸になり、口呼吸によりベロが出て、ベロによって前歯が上下に押し出され、開口の状態になり…と、最初に鼻詰まりを治さないという不自然な生命活動ゆえに、歯並びが崩れてしまうことがあるんです。
稲留:なんだか、自然の成り立ちと似ていますね。