広島市安佐動物公園 園長/阿部 勝彦さん

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広島市安佐動物公園 園長
阿部 勝彦さん

【プロフィール】
1966年、三原市出身。
山口大学農学部獣医学科卒。
92年、広島市に入庁。
23年4月、安佐動物公園の8代目の園長に就任。
現在は、種の保存と動物福祉の両立を園の柱に掲げ、他園や専門家、地域と連携した園運営に取り組んでいる。趣味は映画鑑賞で、休日は動画配信で映画を楽しむことが多い。動物園勤務後に2度の手術を経験したことをきっかけに健康への意識が高まり、現在は週1回のソフトバレーボールで体力づくりを続けている。


「命を救う」少年の想いは、動物園で結実


 開園54年目になる安佐動物公園を率いる園長。その原点は、材木置場で出会った小さな命にあります。幼少期から生き物が好きで、家の隣にあった材木置場には、捨てられた犬や猫が多く、餌を与え世話をしていたといいます。なかでも可愛がっていた犬が、保健所に連れて行かれ処分された光景は、今も原点として胸に残っています。「大人になったら、こんなことをやめさせたい」。その思いが生物系の大学を志望する際に、生き物に関わるなら命を救える獣医師を目指す、という決意につながりました。獣医学科を卒業後は、市の職員として衛生研究所や食肉検査所、保健所、動物愛護センターなどを経験。開業志向はなく、公務員獣医として現場を重ねてきました。動物園勤務を志しながらも、制度の変化で道は狭まり、念願が叶ったのは7年前。飼育展示課長として安佐動物公園に着任し、2年目から副園長を兼務、3年前に園長に就きました。

 しかし動物園異動直後にコロナ禍を迎え、他園の職員や園長と顔を合わせる機会もなく、経験を積めないまま重責を担う3年間は厳しいものでした。それでも公務員時代の病理や解剖の知識、愛護センターでの地域猫活動導入までの苦労と、年間500頭に及ぶ不妊去勢手術の経験は、確かな自信となりました。「公務員にできることは限られています。だからこそ、自分でできないことは誰かと協力する」。その姿勢は、愛護センター時代の殺処分の大幅減少や、専門家と連携したキリンの装具治療などへと結実していきます。近年の大きな転機は、世界でも希少なマルミミゾウの妊娠。この件をきっかけに初のクラウドファンディングに挑戦し、国内でも例のない出産成功を果たします。園の役割は、見せるだけでなく「種の保存」。野生で絶滅したシフゾウが、飼育下繁殖で復活した事例を挙げ、その意義を静かに語ります。

 公務員時代には部下に求めすぎ、反省した時期もありました。今は発破をかけすぎず、達成感を大切に見守るリーダーでありたいと考えています。園内では再整備工事で観覧しにくい場所がありますが、魅力ある動物がたくさんいます。「静かな日に、ゆっくり歩いてほしい」。子どもの頃とは異なる視点で動物を見つめる時間は、大人ならではの新たな気づきをもたらしてくれます。思い描くのは、来園者にとって心地よく、動物の幸せを考えた環境であり、職員一人ひとりが誇りを持って働ける園です。その三者が穏やかに支え合う関係こそが、この動物園の目指す未来だと語ります。




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令和7年8月5日、国内で初めて誕生したマルミミゾウのアオくんと母ゾウのメイ。現在は健康管理を最優先に、天候や気温を見ながら短時間展示されています。自由観覧で、親子の穏やかな成長を一緒に見守ることができます。